【おすすめ本】黒人文化は革新的であり保守的でもあり…_『ブラック・カルチャー観察日記』

KFCブラック系の音楽が好きで、サッカーをはじめスポーツが大好きな僕は、黒人にある種の憧れを持っています。それは、我々日本人が決して持つことが出来ない身体的、そして感覚的な特徴を持ち合わせているから。

例えば、音楽で言えば、脳天を直撃する圧倒的な歌唱力や独特のファンキーなリズム感。
例えは、スポーツで言えば、「それは反則でしょう!」と思わず叫んでしまいたくなるほど、凄まじい身体的能力。

そのような彼(女)らのポテンシャルを見てしまうと、羨ましくもなりますよ。そりゃ、憧れもしますよ! ただ、僕ら日本に住む一般的な日本人が目にする黒人の人達と言えば、スーパースター達ばかり。

それは、マイケル・ジャクソンであり、ジェームス・ブラウンであり、マイケル・ジョーダンであり、ウサイン・ボルトであり、ディディエ・ドログバであり…。

だから、黒人と言えば、「歌やダンスは上手く、スポーツは万能で、ファション・センスもいい」といった印象を持ってしまっています。皆さんもそうではないですか?

しかし、当然ですが、黒人の人たち皆が皆、上記のような特徴を持っている訳ではありませんよね。大阪人に面白くない人も当然いるように…。

ブラック・カルチャー観察日記 (P‐Vine BOOKs) 単行本
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本書は、著者である高山マミさんが、黒人のだんな様とご結婚され、シカゴの黒人の家族に囲まれて生活する中で感じた、発見したブラック・カルチャーの真実や不思議を綴ったものです。
僕はファンクが好きなことからブラック・カルチャーにも元々興味を持っていましたが、全く黒人文化に接点がなかった方でも、食べ物やファッション、映画やスポーツなど、取っ付きやすい話題も多いので、きっと楽しめ、新たな発見を得ることができると思います。

今回は、そんな本書のなかで、僕が引っかかったことをいつくか紹介させていただきます。

目次

差別が生み出した負の遺産

日本でも生活保護受給者が近年急増し200万人を超えたというニュースが話題を呼びましたが、この生活保護の問題は、黒人社会にも根強くあるようです。黒人社会では、離婚率やそもそも結婚をせず未婚のまま子供を育てる女性が多いそうですが、その理由を一般的な推測で考えると、経済的にも自立して一人で子供を育てることができるから、となりそうですが、アメリカでは別の理由があるのだそうです。それは、

「生活保護を受給するため」

母親が一人で仕事もしていなければ福祉により保護を受けることができるのです。貧しい人がいたら助ける、一見良いことのようにも思えますが、これが現在に至るまで「貧困」という負の連鎖の原因になっているとも取れるのです。

彼らは、母子家庭と福祉依存状態にマヒしてしまっている。
生活保護という甘い汁によって、貧困母子家庭はどんどん生まれる。(P49)

日本での格差の原因の根本はアメリカのそれとは異なるかもしれませんが、一度生活保護を受給してしまうと、それに依存してしまい、なかなかそこから抜け出すことができないという構造は同じような気がしました。

また、負の面で、「少し残念だなぁ」と思ったのが、黒人のコミュニティでは、女性の井戸端会議から優秀な学生たちの間の会話にいたるまで、

「人の悪口を言う」

というのが日常の文化になっていることです。例えば白人への不満や文句。しかも驚きなのは、実際には白人と付き合ったこともない、白人のことをよく知らない人たちですら、日常的に不平不満を言っているそうです。また、黒人同士でも、変わったことをする人は、すぐからかわれてしまうそうです。これは特に子供が育つ過程において弊害になります。

いじめっ子を無視して、自分の道を突き詰めると良さを持ち合わせた子どもは幸いだ。
それができなかった子は、残念ながら社会の脱落者の仲間入りになってしまう場合が多い。(P27)

僕は最近、色々な方の著書を読むなかで出会った「いい言葉は貯金、その逆は借金」という言葉が好きで、できるだけ普段から話したり書いたりする言葉がネガティブにならないように気を付けており、使う言葉によって人生が変わるということを信じているので、「人の悪口をいう」「人と変わっているとからかわれてしまう」という伝統は残念に感じました。まずは大人達が変わらないといけないのでしょうが、それが当たり前の文化として定着してしまっているため、変わるのは難しいのでしょうね。

ステレオタイプのホント?ウソ?

正直、ステレオタイプという意味では、全く知らなかったのが下記のこと。

 黒人といえば、フライドチキンとスイカ。アメリカであまりに浸透した、ステレオタイプの代表である。(P28)

「え??、フライドチキンと言えば、KFC。KFCと言えばカーネルおじさん。カーネルおじさんと言えば白人。白人の料理ではないの??」

きっと僕と同じように思った人が多いはずではないでしょうか?  実際には、奴隷制度時代の白人家庭では、鶏の胸肉を好み捨てられていた骨付き部分の肉に香辛料をたっぷりまぶし、ラードでじっくり揚げたのが起源なのだそうです。それが南部の白人の間でも人気になり、さらにKFCの誕生により一気に全国区になったということ。

ちなみに、つい気になってKFCのHPの『「Q&A」よくあるお問い合わせ』のコーナーを調べてみましたが、カーネルおじさんが調理法を考えたという記載はあっても、その歴史までは書かれていなかったですね。

我が家では「KFCのチキンでクリスマス!」が定着するほど、KFCが好きなため、この意外(?)な真実にビックリしました。

また、僕が一番気になっていたスポーツや音楽についてですが、黒人がみんなスポーツが得意で、歌が上手いというのはステレオタイプのようですが、やはりスポーツが得意な人、そして歌が上手い人は多いようですよ。これには「ほっと」しました。これは勝手な憧れで申し訳ないのですが、やはりイメージとしてもう定着していまっているので、「(運動)音痴な黒人」は全くもって想像できません。

また、ここでも知らなかったのですが、「黒人は水に浮かない」という迷信があるのだそうです。あまり意識したことなかったですが、そう言えばオリンピックの水泳で黒人の選手って見たことないですよね? 理由を知ればすぐ納得なのですが、それは、プロがないから。元々黒人文化には学校でも水泳をする習慣がないし、そもそも運動神経がよければバスケや野球やアメフトをやる。当然と言えば当然の理由ですが、すごく納得してしまいました。

あと、音楽的な話題で意外だったのが、黒人はあまりブルースや古いソウルは聴かないということ。ロックは聴くと変わり者扱いされるというのは何となく分かる気がするのですが、「ブラック・ミュージック=ブルース、ソウル」だと当然のように思っていたから、驚きました。歌詞が痛々しい、古典、古臭いといったことが理由で、若い世代はもっぱらHIPHOPだそうですが、そのソウルやファンクが大好きな僕としては、なんか残念な感じです。まぁ、僕を含め日本人も若い世代は演歌聴かないですしね!それと同じような感覚なのかなぁ。

あ、演歌といえば、歌に関するスラングで「へ〜〜!」と思ったのが1つ。

スラングで、黒人は「sing」と「sang」を使い分ける。(中略)「sang」には、単に「歌が上手い」というだけでなく、もっと「魂の入った」「コブシを効かした」みたいな意味がある。(中略)「sanger」とは、歌い手に対する、最高の賛辞でもある。

こうなると気になるのが、「singer」は誰で「sanger」は誰ということですが、これは著者が友人達に聞いた結果が掲載されているので、是非ご覧になってください。この分類をみて、僕は更に「へ〜〜〜〜!」と唸ってしまいました。

是非チェックしてみたい作品

本書の中では、世間的には高い評価を受けているにもかかわらず、黒人達の間では人気がないという作品が紹介されています。例えば、映画『ブルース・ブラザーズ』。この映画に関しては、先日プロフィールが替わりに「自分が好きな映画」ということで、本作品のレビューを書いているほど好きな映画なのですが、黒人は人気がない、というかほとんど観ていないそうです。

「だって、JBやアレサ・フランクリンやレイ・チャールズ…、とか黒人アーティストのレジェンドと呼ばれる人たちがいっぱいでてくるじゃん!!」

って僕はつい読みながら反論してしたくなったのですが、その理由は単純明快。主人公が白人2人だから。実に分かりやすい理由すぎて笑ってしまいました…。

他には、映画では、黒人男性と白人女性の恋愛を描いた「ジャングルー・フィーバー」「招かざる客」や、小説では、「アンクルトムの部屋」など、人種問題を描いた作品が紹介されていたので、一度や見た作品もありますが、改めて見直してみたいなぁ、と思う作品もありました。


僕ら日本に住んでいる普通の日本人は、日常的に黒人の人と話す機会も出会う機会もほとんどありません。だから、どうしてもメディアを通して得た知識を元にイメージを作り上げてしまいます。しかし、それは事実とは異なるあまりに偏った知識です。

思えば、僕が高校生の頃には、腰パンなど黒人文化の格好良く見える表面部分を真似したりもしましたが、所詮表面の軽い部分です。その背景にある歴史だったり哲学的な部分だったりは殆ど知りませんでした。

今回紹介させていただいたのは本書のほんの一部です。他にも

「何故、黒人男性は、たいして金持ちでもないのに高級車に乗っているのか?」
「何故、黒人女性は、大金をはたいてチリチリの髪の毛をストレートにするのか?」

など、面白くもあり、同時にその文化的背景の持つ意味を考えさせられる話題が色々と掲載されています。ブラック・カルチャーに興味が無い方でも、きっと一気に読めてしまう内容だと思いますので、是非皆さまに読んでいただきたいです!

P.S. 著者である高山マミさんの著作第2弾『黒人コミュニティ、「被差別と憎悪と依存」の現在——シカゴの黒人ファミリーと生きて』も発売中です。こちらはまだ未読ですが、是非近日中に読んでみたいと思います! 既に読んだ方がいらっしゃったら感想を聞かせてくださいなm(_ _)m

オリジナル記事の投稿年月日:2012年3月13日
当記事は管理人が過去に運営していたブログ『」リー:リー:リー』に投稿した記事です。管理人のミスでブログ自体が消滅してしまいましたが、生原稿が残っていたものを若干修正のうえ、再アップさせていただいております。

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