繰越控除も節税に役に立つけど、赤字続きだと即効性なし
法人の場合、ある事業年度で生じた赤字(=欠損金)は10年間繰り越すことができ、その後の事業年度で黒字になった場合には、その事業年度の所得金額から、過去の欠損金を差引くことができます。
しかし、この繰越控除は、赤字を将来の黒字と相殺する制度なので、赤字が続いた場合には、その赤字が毎期積みあがっていくだけで、すぐには、そのメリットを受けることができません。
一方、この「欠損金の繰越控除」とは別に、赤字が生じた事業年度の直前の事業年度が黒字で、法人税等を納税していた場合には、その法人税等を還付してもらえる制度があります。
この制度を「欠損金の繰戻還付」といいます。
「欠損金の繰越控除」は、10年間も繰越ことができるので、その後、業績が黒字に転換し、欠損金を使い切ることができれば、結果的に節税効果はそれほど変わりませんが、即効性のある「欠損金の繰戻還付」を申請し、法人税等の還付を受けたほうが、手許資金が増えるので有効な場合もあります。
↓「欠損金の繰越控除」については、過去記事をご参照ください。
繰戻し還付を受けられる法人の要件を確認
「欠損金の繰戻還付」を受けることができる法人の要件は以下の通りです。
- 所得事業年度から欠損事業年度までの各事業年度について連続して確定申告書(青色申告)を提出している。
- 欠損事業年度の確定申告書(青色申告)をその提出期限までに提出している。
- 上記❷の確定申告書と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出する。
文字にすると分かりづらいですが、法人であれば毎期、確定申告書(青色申告)を期限までに提出しているでしょうから❶❷は自動的にクリア。
あとは、還付を受けたい事業年度の確定申告書を提出する際に、あわせて❸の「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出するだけなので、特別面倒な手続きでもありません。
繰戻還付を受けられる法人税等の金額はいくら?
「欠損金の繰戻しによる還付請求書」の提出により還付請求できる金額の計算式と、具体例を交えて見ていきましょう。
還付金額の計算式
計算式への当てはめ
❶法人税
105万円 × 500万円※/700万円 = 75万円
※700万円 > 500万円 ∴500万円
❷地方法人税
75万円(法人税の還付請求額)× 4.4% =33,000円
資金繰り的にも助かる繰戻還付は積極的に使うべき!
「欠損金の繰戻還付」は、前期が黒字で当期が赤字のケースに限って使える制度ですが、実際には繰戻還付を使えるケースでも、繰戻還付を請求しないで「欠損金の繰越控除」を選択される会社が結構多いです。これは、法人税法の以下の条文が関係しています。
「税務署長は、還付請求書の提出があった場合には、その請求の基礎となった欠損金額その他必要な事項について調査し、その調査したところにより、その請求をした内国法人に対し、その請求に係る金額を限度として法人税を還付し、又は請求の理由がない旨を書面により通知する。」
※法人税法 第80条
法律の文章は堅苦しいのであまり引用したくなかったのですが、要は「還付請求があった場合には、その内容について調査をして、その調査の結果次第で、請求金額を限度として還付しますよ!」ということです。
つまり、還付請求が税務調査を誘発することは、確かに、あり得ます。会計事務所と顧問契約をしている会社であれば、この辺りの事情は会計事務所から事前に伝えられるので、そのすると税務調査は面倒だ、という理由で還付請求を避けてしまうことがよくあります。
ただ、調査といっても、調査官が会社にくる実地調査になることもあれば、電話での確認だけのこともありますし、特に何の連絡もなくスルーされることだってあります。
確かに実地調査になると手間はかかる可能性はありますが、過去の会計処理についてやましい点がなければ、過度に恐れることはありません。それよりも、還付請求によって手許現金が増えるのであれば資金繰り的にメリットがあるはずです。そのメリットも考慮したうえで「欠損金の繰戻還付」を使うかどうか、是非ご検討ください!